いつも着ている服
春になると、母はレモン色の薄手のコートを着ていた。
よく似合っていたと思うし、いつも着ていたから気にいってるのかと思っていた。
ある日、母と駅に向かって歩いている時に「お母さんいつもそれ着てるね。好きな洋服なんだね。」と話したら、烈火の如く怒り出した。
大声で、顔も般若のように変わって「そんなわけあるはずないだろう!安いから着ているだけだ。誰が、こんな服好きで着ていると思うか!」と叫ばれて、あっけにとられた。
似合うから誉めたかっただけだった。その一言をきっかけに、機嫌が良くなってもらえて、楽しく一日過ごせたらと思っただけだった。二つ隣の駅に母の買い物に荷物持ちとして行く日で、荷物持ちでも母と二人でのお出かけが嬉しかった。
なんでこんなになっちゃうんだろうと悲しくなって道で泣いたら、邪魔だから帰れと言われて帰された。
夕方、私はブタ小屋と言われる自分のスペースで、居間で兄と妹に母が私の文句を言うのを悲しい気持ちで聞いていた。