黒電話
実家はずっと黒電話だった。
ものすごく嫌だった。
保留音がないから、ばれてしまう。
私にとって家や家族は恥ずかしい存在だったから、誰の印象にも残らない多数のものであってほしかった。
連絡網の電話を受けている時に、電話中ということを忘れた母親の声が相手に聞こえてしまったことがあった。
外面のいい母の怒鳴り声が聞こえたようで、翌日いつもお母さんああなの?と聞かれたことがあった。
恥ずかしくて答えられなかった。
外では本当に優しい人として通っていた母親だったから、余計にギャップがあったようで。
好奇心と憐れみの混ざったような同級生の顔が嫌だった。
私に関心を持たないでほしかった。
高校生になって、バイト代を家に入れるようになったから、このお金で電話を買い替えてほしいとお願いしたことがあった。
お父さんお母さんは困ってないから必要ないと断られ、そのお金は父のパチンコ代と、母の洋服代に消えた。