夏休みの思い出
子どもの頃、夏休みはどこへも行けなかった。
お金がかかるからという理由もあっただろうけど、父も母も混んでいる場所が嫌いだったから。
遊園地に行きたい、ディズニーランドに行きたい、海に行きたい、山に行きたい、いろいろおねだりしてみたけれど、連れて行ってもらったことはない。
ある時、一度だけ、兄が遊園地に行きたいとごねた。
兄に甘い母は父に拝み倒して、遊園地へ行くことになった。
私達兄弟ははしゃいだ。
遊園地に着いた時に、入場料が思いの外高かったのか、父が遊園地に来たから帰るぞと行った。
駐車場から遊園地の観覧車を見せただろう、だから帰ろうと。
混んでるし、疲れるだけじゃないかと。
兄は泣いた。しゃくりあげて、わんわん泣いた。
普段わがままを言わない、聞き分けのいい兄がものすごく泣いた。
そんな展開になると思っていなかった母は父を説得しようとしていたけど、父が頑として譲らず、遊園地を駐車場から見るだけで帰ることになった。
あの頃の兄の気持ちを考えると、本当に胸が詰まる。
父は共感力が弱いのか、俺様なのか、そういうことが時折あった。
どうしてそんなに子どもの気持ちを踏みにじることができたのか。
身近にいた親が一番理解出来ない人間だった。